撹拌パターンがフィルム現像に与える影響を調べるため、一連の実験を行いました。
設定は以下の通りです。
現像液 :Adox Rodinalを使用。ロディナルは酸化還元システムを持たないため、他の現像剤に比べ撹拌の変化に強く反応します。
フィルム:Rollei RPX 100使用。すべて同ロットのものです。
温度 :20℃ちょうどでは行いませんでした。温度変化の影響を受けないようにしたかったからです。
温度を20℃に調整しながら現像液を混ぜることは、常に不正確なリスクを伴います(タンク温度と現像液の温度が異なる場合は特に)。そのため、水、現像液、タンクを室内で10時間かけて馴染ませました。
テスト開始時の温度は20.5℃で、最終テスト終了時の温度変化は0.3℃以下でした。
露光 :テスト露光はすべて一度に行いました。
現像 :全てのフィルムを一度に行いました。精度を上げるためにハイランドTASを使用。
撹拌速度は3(中速)に設定しました。
タンク :JOBO1510タンク
現像時間:反転撹拌では常に同じ、スタンド現像では1時間とした。
撹拌と希釈:6種類の撹拌パターンx希釈率の組合せ(以下表参照)でテストを行いました。
各組合せによるテスト結果を色別の濃度曲線に示しました。
グラフの色 | 攪拌 | 希釈 |
緑 | 連続撹拌(回転なし) | 1+49 |
黄 | 30/30/1 | 1+49 |
オレンジ | 30/60/3 | 1+49 |
赤 | 30/180/1 | 1+49 |
紺 | スタンド 現像 | 1+99 |
青 | スタンド 現像 | 1+199 |
水色 | スタンド 現像 | 1+199 (フィルム1本をフル現像) |
では、結果について見ていきましょう。
緑色グラフは、連続攪拌を行った場合(回転現像なし)の結果を表しています。
ハイライト部分の濃度が全テスト中、最も高いことがわかりますね。
シャドー部濃度は全フィルムでほぼ同じでしたので、連続撹拌の場合、コントラストが最も高くなっています。
黄色グラフは撹拌30/30/1、オレンジは攪拌30/60/3のものです。両者の濃度は非常に似ていますが、30/60/3の方がやや高くなっています。
赤は、撹拌をほんの少しだけ(3分ごとに1回だけタンクを攪拌)行ったフィルムです。コントラストがかなり落ちていますね。先の緑グラフと比べると、2ゾーン分のコントラストが失われています。赤グラフは、緑グラフに比べてN-2です。
紺色グラフは、1+99で行ったスタンド現像の結果です、濃度がかなり高くなっています。
ですが、ここで忘れていけないのは、今回のテストストリップにはフィルム8露光分の短いものを使用したということです。もし、フル露光した36枚撮フィルム1本を1+99で現像したなら、濃度はもっと低くなっていたでしょう。
ロディナルは、現像剤に酸化還元システムがないため、現像時間よりも希釈によって、よりコントロールすることができます。
青色グラフは、希釈1+199でのスタンド現像ですが、希釈1+99の紺色グラフよりもコントラストが低くなっています。これも同様に、わずか8露光分のフィルムでテストを行っていることに注意です。
今回のテストに使用したタンクはJOBO1510でした。
JOBO1510タンクは、250mlの作業溶液を必要とします。ですから、使用された現像原液はたったの 1.25mlということです。
これは明らかに、8フレーム分の露光を比較的高濃度で現像するのに十分です。
水色グラフは、青と同じ希釈1+199 でですが、フィルム1本をフルでスタンド現像しています。
コントラストは非常に弱くなっています。
このコントラストは、赤グラフ(撹拌を非常に減らして行った場合)と似ています。
違いは、撹拌30/180/1(赤グラフ)では、現像時間をより長くすれば、より高いコントラストが得られるということです(注:このテストで反転撹拌の現像時間は、全攪拌において同じで行われました。現像時間が長くなり過ぎるのを避けるには希釈を下げた方が良いでしょう)。
現像液にはまだ現像能力が残ってはいますが、撹拌回数を減らしたために、フィルムにアクティブな現像液が十分行き渡っていませんでした。
ですが、水色グラフでは同じこと(高コントラストを得るために現像時間を長くする)は言えません。
2時間、3時間、5時間現像しても、希釈が高すぎて現像液が疲弊(枯渇)しているため、何も変わりません。現像液に含まれる現像剤の量が不足していて濃度の高いフィルムを作ることができないのです。
スタンド現像では、写真のように現像ムラが発生するリスクがあります。
これを避けるためには、現像の副産物(臭化物)を除去し、乳剤の表面に新鮮な現像剤を確実に供給する「撹拌」作業が必須になります。
シャープネスと粒状性については、目に見える違いはありませんでした。
もちろん、コントラストが高ければ高いほど、我々の目にはよりシャープに映ります。
なお、エッジ効果(この場合はマッキーライン)は、撹拌には関係ありません。これは乳剤中で起こる効果で、主に拡散*に依存します。
*拡散については後日改めてまとめようと思います。
(ティムモーグ/シルバーソルト)