【Push & Pullについて】

「Push(プッシュ)」と「Pull(プル)」は、それぞれコントラストを強めたり弱めたりする(=コントラスト範囲を拡げたり狭めたりする)現像方法です。

何が起こっているのかを理解するために、まずいくつかの基本を理解することが重要です。

フィルム感度は「ゾーン1」で定義されます(そのフィルムの本当の感度はゾーン1で決定されます)。
そして、テストしたフィルム感度に到達するためには、このゾーンの濃度は logD 0.1であるべきです。

もう一つの重要なゾーンは「ゾーン8」です。ここでコントラストが測定されます。
シャドゥ(ゾーン1とその周辺ゾーン)は、露出によってコントロールされます。
ハイライト(ゾーン8とその周辺)は、現像によってコントロールされます。

濃度グラフは、ゾーンごとのフィルムと現像液の組合わせの濃度を示します。
コントラストが強いほどグラフは急峻になります。
コントラストが弱いほどグラフは平坦になります。

そしてすべてのグラフは、中程度コントラストでプリントしやすいネガを表すDIN/ISO標準グラフ(Nグラフ)と比較されます。

グラフを調整したい場合、現像時間を変えることで可能です。
現像時間を長くすると、ハイライト部の濃度が高くなり、グラフが急峻になります―すなわちコントラストが強くなります。
現像時間を短くするとその逆です―ハイライト部の濃度が低くなるため、グラフは平坦になり、結果的にコントラストが弱くなります。

さて、下のグラフは、DIN/ISOグラフ(黒線)とSPUR Silversalt現像液におけるAgfaphoto APX400Newのテストグラフ(赤線)です。両方のグラフがゾーン1の同じポイントで合流しているのがわかります。
これは、このフィルムと現像液の組み合わせでは、ISO 400/27°のテストスピードが正しいことを意味します。また、両方のグラフがゾーン8で再び合流しているのがわかります。これは12.5分という現像時間が、通常のコントラスト現像(N現像)にぴったりだったということです。
黄線は勾配が急でN+現像(高コントラスト)、緑線は勾配が平坦でN-現像(低コントラスト)をそれぞれ表しています。黄線と緑線はあくまで例であり、赤線のようにテストに基づいているわけではありません。

しかし、なぜ私達はコントラストを変えようとまで思うのでしょうか?

通常のコントラストを持つモチーフの場合、ゾーン2からゾーン8までがディテール範囲となります。これは6ストップに相当します。
ではここで、コントラスト範囲が4ストップしかないモチーフがあったとします。つまり全コントラスト範囲に対して2ストップが欠けているということです。

グラフ2をご覧ください。赤いエリアに示されているように、4ストップ分のコントラスト範囲がゾーン5のミドルグレーを中心に設定されているのがおわかりいただけると思います。
黒グラフ(N現像)のコントラスト範囲は、(ゾーン7の濃度からゾーン3濃度を差引いた)1.1-0.35=0.75であることがわかります。
コントラスト範囲が0.85〜1.15に入るネガが、プリントしやすいと言われていますので、この0.75の値は低すぎますね。

この場合は、現像時間を長くして、N+2現像に挑戦したとします。
そしてその結果、グラフは青線で示されたような曲線(N+2)を描きました。

青グラフのコントラスト範囲は、1.60-0.55=1.05です。これは非常に使いやすいコントラスト範囲です。
そして、青グラフのゾーン6は、すでにNグラフのゾーン8の濃度に達している(薄いグレーの水平線)ことから、青グラフがN+2であることがわかります。

しかし、ひとつ問題があります。

それは、N現像からずれた現像でも、ネガのディテール領域の中心は、モチーフのディテール領域の中心と一緒に落ちてくるべきだというもっともな主張です。
これは、露出アンダーにすればよいのです。この場合、1ストップ分。

これでゾーン4を中心にゾーン2からゾーン6までがコントラスト範囲となりました。グラフ3をご覧ください。
現像時間が長いので、N+2グラフのゾーン4は、Nグラフのゾーン5と同じ濃度になります。
コントラスト範囲は、1.3-0.3=1.0となりました。露出補正をしない場合より少し下がりますが、それでも良好です。

なお、フィルムの実効感度は変わっていないことにご注意ください。

プッシュ現像は、モチーフのコントラストが低い場合に有効な手段です。

コントラストが正常な場合にプッシュ現像を行うと、シャドゥやハイライトのディテールが失われます。
また、現像時間が長くなるため、フォグや粒子が増加することがあります。

ここまでプッシュについて述べてきましたが、プル現像の場合は、プッシュの真逆で同じことが言えます。
つまり、プル現像はモチーフのコントラストが高い場合に有効な手段であり、露出オーバーと短時間現像によりコントラスト範囲を狭め、N-現像を行います。